ArcGIS for Desktop を使用したモバイル マップの設計および作成
現場で使用するモバイル データやマップを設計し、作成するときは、フィールド作業がどのようにマップ データを表示し、フィーチャを編集するかを考慮する必要があります。フィールド ワークフローは、オフィスで行うワークフローとは違います。モバイル マップの設計に影響を与える可能性があるファクタには、次のものがあります。
- データに関する検討事項
- 作業環境の状態(たとえば、直射日光、雨、雪、埃、および暗さ)
- モバイル デバイスのフォーム ファクタ(ディスプレイの解像度、キー、ロッカー、スタイラス操作など)
- マップ フィーチャに使用するシンボル
- デバイスのメモリ
- ストレージの制約
以降のセクションでは、モバイル マップの設計上の重要な検討事項と、ArcGIS for Windows Mobile アプリケーションで ArcGIS for Desktop マップ シンボルを操作する方法の詳細について説明します。現場での作業では、編集と表示に操作マップ レイヤが頻繁に使用されるため、このトピックでは、操作マップ レイヤに焦点を当てます。モバイル マップの詳細については、「モバイル マップの概要」をご参照ください。
データに関する検討事項
多くの場合、モバイル マップは編集用の操作レイヤや読み取り専用の参照情報を提供する操作レイヤを含んでいます。たとえば、電柱検査マップには、多くの場合、現地で更新される可能性のある電柱レイヤ、変圧器レイヤ、送電線レイヤが含まれます。電柱検査マップには、サポートのための背景データとして、土地区画や区域の境界線、道路の中心線、住所情報、さらにはベクタ レイヤが含まれます。
デバイスにはかなり大きいサイズのデータがキャッシュされるため、パフォーマンスとストレージ上の理由から、すべての背景データをできるだけ小さくシンプルに保つことが重要です。背景データを単純化してサイズを抑えるには、まず、アプリケーションの目的であるフィールド タスクを完了するためにその背景レイヤが必要かどうかを検討します。背景レイヤが必要である場合は、シンプルなシンボルを使用してフィーチャを表現し、ArcGIS for Desktop のジェネラライズ ツールを使用して背景レイヤの形状を単純化します。
ベースマップのサイズは、フィールド デバイスのストレージの制約によっても制限されるため(詳細については、このトピックの「ストレージの制約」セクションをご参照ください)、ラスタ データまたは衛星画像をベースマップとして含める場合は、モバイル プロジェクトに含める範囲も考慮する必要があります。ベースマップを含めるには、ArcGIS for Desktop または ArcGIS for Server を使用して、タイル パッケージまたはタイル データセットを作成し、Mobile Project Center でこれらをベースマップとして使用することができます。詳細については、「タイル パッケージまたはタイル データセットの作成」をご参照ください。
作業環境の状態
マップを設計するときは、フィールド ユーザの視点で考える必要があります。フィールドの作業環境を考慮してください。これには、条件が厳しい環境(災害管理など)、または強い日光、暗さ、雨、氷点下の降雪状態などの他の条件が含まれる可能性があります。日射の状態は、マップを設計するときに選択する色やシンボルに直接影響を及ぼします。オフィスでは、理想的な状況下でマップを設計しています。人工的な照明や大型モニタを使用するオフィスでは、さまざまな色やシンボルを使用することができます。しかしながら、さまざまな色やシンボルを現場のモバイル デバイスで使用すると問題が起きる場合がよくあるため、実験を行う必要があります。一般的なガイドラインとして、次のヒントを考慮してください。
- コントラストを強調した簡素なモバイル マップを設計する。
- 縮尺依存を使用して、表示する情報の量を制御する。
- フィールド作業員が慣れているシンボルを使用する。たとえば、高速道路フィーチャに標識シンボルを使用します。
- 背景レイヤを可能な限り透過表示にする(レイヤの透過表示を設定して実現可能)。
- 土地区画、区域、またはポリゴン フィーチャを背景情報として表示するときに、塗りつぶしの使用を回避する。塗りつぶしが避けられない場合は、単純な色を使用するか、レイヤの透過表示を設定します。
- 可能な場合、グレーの色調を使用してテキストの量を制限する。
以下のマップの例では、オフィスで使用する場合と現場で使用する場合の違いを示しています。
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デバイスのフォーム ファクタ
アプリケーションのターゲットとなるモバイル デバイスのフォーム ファクタと、デバイスにマップを表示するときの形状(縦または横)について検討する必要があります。ほとんどの Pocket PC の解像度は 320 x 240 ですが、機種によって大きく異なる可能性があります。多くの場合、マップの設計に使用するモニタは 1024 x 780、1280 x 1024 またはそれ以上です。解像度は、縮尺依存に直接影響を及ぼします。マップのレイヤに縮尺依存を追加して、必要な場合にのみレイヤのコンテンツが表示されるようにすることは非常に重要です。これにより、マップの明瞭さが改善され、さらに重要なことに、マップの描画にかかる時間が短縮されます。
レイヤごとに表示縮尺を設定します。

ArcGIS for Windows Mobile アプリケーションはマップに設定した基準縮尺を適用しないため、拡大/縮小してもシンボルのサイズは変わりません。
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マップ シンボル
地理情報を表示するために選択するシンボルは、モバイル アプリケーションでのマップの有効性を左右します。既存のアプリケーションを再構築する場合、または現場で紙の地図が使用される場合は、可能であれば、フィールド スタッフが見慣れているシンボルを使用してください。シンボルをシンプルに保ち、マップ上で正しい情報を提供するにはコントラストが重要であることを覚えておいてください。ここで重要となるのは、モバイル マップの設計に、フィールド アプリケーションではなく、デスクトップ アプリケーションや Web アプリケーションのマップを作成するためのデスクトップ アプリケーションを使用していることです。
モバイル サービスでサポートされるシンボルが、モバイル ジオプロセシング ツールで作成されたモバイル キャッシュでサポートされなかったり、その逆の場合もあるため、使用するシンボルを設計する際は、デスクトップ ワークフローを使用するか、サーバ ワークフローを使用するかを決定します。詳細については、「ArcGIS for Windows Mobile のワークフロー」をご参照ください。
ArcGIS のシンボルは、ポイント、ライン ポリゴン、テキストに分類できます。ArcGIS for Windows Mobile は、ArcGIS シンボル セットの一部をサポートします(基準縮尺はサポートされていません)。このため、ポイント フィーチャを表示する縮尺に基づいてサイズを選択する必要があります。サポートされるシンボルは、次のようにまとめることができます(詳細については、次の表もご参照ください)。
- すべてのシンプルなシンボルがサポートされます。
- データがモバイル サービスから得られた場合、3D シンボルはサポートされません。
- すべての 2D シンボルはデスクトップ ワークフローでサポートされ、そのほとんどはサーバ ワークフローでサポートされます。両方のワークフローで、シンボルはダウングレードされる可能性があります(たとえば、マーカー塗りつぶしシンボルはシンプルな塗りつぶしシンボルにダウングレードされます)。
- SQL クエリ、条件式、または複数のクラスによるラベルは、どちらのワークフローでもサポートされていません。
ポイント シンボル
ポイント シンボルの種類 | モバイル サービスでのサポート | モバイル キャッシュによるサポート | |
---|---|---|---|
2D | シンプル マーカー | 可 | 可 |
絵文字マーカー | 可 | 可 | |
矢印マーカー | 可 | 可 | |
ピクチャ マーカー | (ダウングレード) | 可 | |
3D | シンプル マーカー | 不可 | 可 |
絵文字マーカー | 不可 | 可 | |
マーカー シンボル | 不可 | 可 |
ライン シンボル
ライン シンボルの種類 | モバイル サービスでのサポート | モバイル キャッシュによるサポート | |
---|---|---|---|
2D | シンプル ライン | 可 | 可 |
マーカー ライン | (ダウングレード) | (ダウングレード) | |
ピクチャ ライン | (ダウングレード) | 不可 | |
ハッシュ ライン | 可 | (ダウングレード) | |
カートグラフィック ライン | 可 | 可 | |
3D | シンプル ライン | 不可 | 可 |
テクスチャ ライン | 不可 | 不可 |

ダウングレードされるため、装飾のあるライン シンボルは使用しないでください。
ポリゴン シンボル
可能であれば、ポリゴンへの塗りつぶしシンボルの使用を避けてください。モバイル デバイスでは、必要以上にマップが複雑になることが多いためです。
ポリゴン シンボルの種類 | モバイル サービスでのサポート | モバイル キャッシュによるサポート | |
---|---|---|---|
2D | シンプル塗りつぶしシンボル | 可 | 可 |
ピクチャ塗りつぶしシンボル | (ダウングレード) | (ダウングレード) | |
マーカー塗りつぶしシンボル | (ダウングレード) | (ダウングレード) | |
ライン塗りつぶしシンボル | (ダウングレード) | (ダウングレード) | |
グラデーション塗りつぶしシンボル | (ダウングレード) | (ダウングレード) | |
3D | テクスチャ塗りつぶしシンボル | 不可 | (ダウングレード) |
テキスト シンボル
ArcGIS for Windows Mobile は、ArcMap のレイヤでのラベリングとジオデータベースに格納されるアノテーションの両方をサポートします。

リアルタイムのラべリングはバッテリを消費するため、ラべリングの代わりにテキストのアノテーションを使用してください。

「*.mxd(マップ ドキュメント)」ファイルに格納されるアノテーションはサポートされていません。
ArcGIS for Windows Mobile では、SQL クエリで定義されたラベル、フィルタ設定で定義されたアノテーション、またはマップ レイヤの配置プロパティは表示されません。また、このアプリケーションは条件式を使用したラべリングもサポートしていません。たとえば、複数のフィールドを連結して住所を作成するテキスト式はサポートされていません。これを行うには、新しいフィールドを作成して、既存のフィールドの連結に等しいフィールドの値を計算する必要があります。
デバイスのメモリ
ターゲット フィールド デバイスとして Windows Mobile デバイスを持っている場合は、デバイスで使用可能なメモリの量を考慮する必要があります。BLOB フィールドまたはラスタ フィールドを使用して画像を格納する場合は、特にこれが重要です。画像ファイルはメモリ ストリームに書き込まれるため、この処理中に使用可能なすべてのメモリを消費する可能性があります。この問題に対処するために、フィーチャクラス用の添付ファイルを作成して、画像ファイル(およびビデオやシステムでサポートされる他の種類のファイル)を添付ファイル フィーチャクラスに添付することができます。
ストレージの制約
特に Windows Mobile デバイスなど、フィールド デバイスはデスクトップ コンピュータよりも格納領域が少ないのが普通です。マップのデザインの時点で、フィールド デバイスに配置するデータの量を使用可能な格納領域に基づいて検討することを始めてください。たとえば、フィールド作業員が作業を完了するために添付ファイルを必要としない場合は、マップに複数の添付ファイルの追加してこれらをまとめてフィールド デバイスに配置するのを避けます。
通常、モバイル プロジェクトでは、ほとんどの格納領域を消費するデータはオフライン ベースマップです。オフライン ベースマップ(タイル パッケージ、タイル形式のデータセット、および StreetMap for Windows Mobile)は、デバイス上に格納する必要があり、サイズはすぐに数ギガバイトを超える可能性があります。オフライン ベースマップのサイズを減らすために、フィールド作業に必要なエリアだけを抽出したり、詳細のレベルを減少させることができます。参照によってベースマップをプロジェクトに追加することもできます(詳細については、「オフライン ベースマップの追加」をご参照ください)。これにより、1 回配置するだけで複数のプロジェクトでベースマップを共有できます。
一方、フィールド作業員のデバイスがフィールドで接続できる場合は、モバイル マップにオンライン ベースマップを含めることができます。フィールド作業員が所定の縮尺のオンライン ベースマップを使用して位置を参照すると、その縮尺のエリアのキャッシュが一時的にデバイスに作成されます。プロジェクトを閉じると、このキャッシュは消去されます。

ベースマップの選択の詳細については、「ベースマップ レイヤの選択」をご参照ください。
デバイスが外部 SD(Secure Digital)メモリ カードをサポートする場合は、そのメモリ カードを使用してデバイスの格納領域を拡張することができます。