概念モデルによる適合性マップの作成
一連の概念ステップを利用すると、モデルを簡単に構築できます。この一連のステップを理解するために、サンプルの課題を使って説明します。都市計画担当者として、新しい学校に適切な建設地を見つける業務を委任されているとします。ArcGIS Spatial Analyst エクステンションのツールを組み合わせて、候補地の特定に役立てることができます。
ステップ 1: 問題の定義
空間的問題を解決するには、解決しようとする問題点と達成目標をまず定義する必要があります。作成すべきマップのタイプを具体化するために、目的とする出力の構想から始めます。
課題は、新しい学校を建設するための最適地を探すことです。そして、新しい学校の建設に適した候補地を示すマップ(最適な用地から最も不適切な用地のランク付け)を得ることが目標です。モデルに設定した基準から、マップ上の各位置の適性を所定範囲の相対値で表示するため、これは、ランク付き適合性マップと呼ばれます。
空間的問題のモデリングを簡単に実行できるようにするために、一連のステップをダイアグラムに記述します。まずは、問題点の定義から始めます。問題点の検討を進めるに従って、ダイアグラムを拡張し、目標に到達するために必要な一連の条件、プロセス モデル、および入力データセットを定義します。
ステップ 2: 問題点の分析
問題点の定義が終わったら、解決に必要な一連のステップが明確になるまで、問題点を細分化します。細分化したステップが、解決すべき条件になります。
条件を定義する際は、それらの評価方法を検討します。新しい学校に最適なエリアは、どのような方法で評価しますか。学校の立地を検討するこの架空の例では、レクリエーション施設に近い位置を見つけるのが望ましいと言えます。なぜなら、該当する町に引っ越してきた多くの家族の子供はレクリエーション活動に興味を持っているからです。また、学校を町全体に分散するためには、既存の学校から離れていることも重要です。また、新しい学校は、適切な土地利用形態で比較的平坦な土地に建てる必要もあります。学校と校庭に十分な大きさの土地の検出、学齢の子供の密度が最も高いエリアの特定など、より多くの条件をこの例に含めることができますが、このモデルは例示の目的で単純化されています。
これらの条件を満たすには、以下の情報を把握する必要があります。
- 比較的平坦な土地はどこか
- 土地利用形態は建設に適しているか
- レクリエーション施設に十分近いか
- 既存の学校から十分に離れているか
比較的平坦な土地はどこか
比較的平坦な土地を持つエリアを見つけるには、土地の傾斜角を示すマップを作成する必要があります。このプロセス モデルでは、土地の傾斜角を計算します。
- 必要な入力データセット: 標高(Elevation)
土地利用形態は建設に適しているか
建設候補地に適した土地利用形態であるかどうかを判断する必要があります。これは、抱えている課題に従う主観的なプロセスです。農地(Agriculture)は、建設コストが最も安いと思われるので、最も望ましい土地です。その次の候補は、荒地(Barren)、雑木林(Scrub Brush)、森(Forest)、既存の市街地(Built-up)の順になります。この場合は関連するプロセス モデルがなく、土地利用(Landuse)を入力データセットとして、建設に最適な土地利用形態の特定だけを行います。
- 必要な入力データセット: 土地利用(Landuse)
レクリエーション施設に十分近いか
新しい学校はレクリエーション施設に近い方が望ましいので、レクリエーション施設までの距離を示すマップを作成し、レクリエーション施設に近いエリア内で新設校に適していると考えられる位置を探す必要があります。このプロセス モデルでは、レクリエーション施設からの距離を計算します。
- 必要な入力データセット: レクリエーション施設の位置(Rec_sites)
既存の学校から十分に離れているか
管轄区域の侵害を防止するため、新しい学校は既存の学校から離れた場所に建てる必要があります。そのためには、既存の各学校までの距離を示すマップを作成する必要があります。このプロセス モデルでは、既存の学校からの距離を計算します。
- 必要な入力データセット: 既存の学校の位置(Schools)
ステップ 3: 入力データセットの調査
問題点を分析して一連の具体的な目標とプロセス モデルを定め、必要なデータセットが決まったら、入力データセットを調査し、その内容を把握する必要があります。そのためには、問題点を解決し、データの傾向を知る上で重要な、データセット内の属性およびデータセット間の属性を把握します。
データを調査してみると、新設校の候補エリア、入力属性に対するウェイト、およびモデリング プロセスの変更に関して、重要な実態が得られることがよくあります。既存の学校およびレクリエーション施設の位置が確認でき、標高が高い位置が elevation データセットからわかります。また、landuse データセットを見ると、該当エリアの土地利用形態および他のデータセットとの関連性がわかります。
ステップ 4: 解析の実行
これまでに、一連の条件、要素とその相互作用、プロセス モデル、必要な入力データセットが明らかになっています。これで、解析を実行する準備は整いました。
ArcGIS で解決できる多くのタスクについては、Esri Press で閲覧可能な『Esri Guide to GIS Analysis』ブックをご参照ください。
新しい学校に最適な位置を見つける場合、解析方法は 2 つあります。つまり、適合性マップを作成してマップ上の各位置の適合性を調べる方法と、作成した一連のデータセットに対して検索を実行し、True または False という論理型の結果を得る方法です。
適合性マップを作成する
適合性マップを作成すると、マップ上の各位置の適合値が得られます。
解析に必要なレイヤを作成し終わったら(この例では、レイヤは傾斜角、レクリエーション施設までの距離、他の学校までの距離、および土地利用)、それらのレイヤをどのように組み合わせると、新設校の候補エリアを示すランク付きのマップを作成することができるでしょうか。それには、一連のレイヤ間でクラス値を比較する方法が必要になります。その 1 つの方法は、各マップ レイヤ内のクラスに数値を割り当てること(再分類)です。
その場合、各マップ レイヤは、新設校の候補地としての適性に従ってランク付けされます。たとえば、10 を最高値として、各レイヤ内の各クラスに 1 ~ 10 のスケールに基づいて値を 1 つ割り当てることもできます。
これは、適合性スケールと呼ばれることがよくあります。検討対象から外すエリアは、NoData を使うと除外することができます。同一の数値スケールに基づいてすべてのレイヤのランク付けを行うと、等しい重要性に基づいて最適な位置を決めることができます。モデルは最初、このような方法で構築します。その後、別のさまざまなシナリオのテストを進めるに従って、一連のレイヤにウェイト ファクタを適用すると、データおよびその関係をさらに調査することができます。
適合性スケールを作成する
この例の場合と同様に、多くのスケールは人工的なものです。それらのスケールは、多くの場合、最も適しているものから、最も適していないものまで適合性のランクを付ける尺度、つまり優先度になります。それは学校までの距離といった計測可能なものに基づいて作成されますが、最終的には主観的な尺度になり、学校からの特定の距離が新設校の建設にどのくらい適しているのかを判断します。
人工的でないスケールもあり、通常は、一部の条件と関連付けられます。コストは、そのよい例ですが、十分詳細に定義する必要があります。適合性の確立を調査する場合、不動産コストを抑えるという条件は、金銭的なスケール(ドル)に基づいて計測することになります。そのようなスケールは、十分詳細に定義しなければなりません。ドルのようにわかりやすいスケールの場合は、米ドルなのか豪州ドルなのか、貨幣間の換金率は、といったその他の可変要素もあります。
多くのスケールは、線形の関係にありません。しかし、それらのスケールは、時間やコストを節約したり、考慮しないオプションがあったりすることが原因で、線形関係で使われていることがよくあります。たとえば、歩行距離にスケールを割り当てる場合、1km、5km、および 10km の歩行距離にそれぞれ 10、5、および 1 という適合性のランクは付けません。5km の歩行は 1km の歩行のわずか 2 倍と受け止める人もいますし、10 倍と受け止める人もいるでしょう。
適合性スケールを作成する場合は、専門家と共に作業し、最高と最低のシナリオを定め、その中間ポイントをできるだけたくさん見つけるようにしてください。そのような専門家は、検討対象の条件に精通している必要があります。たとえば、交通量が最大と思われる時間を市の職員にたずねるよりも、運転に適した時間のランク付けを実際の通勤者にたずねた方が意味があります。
競合する条件と評価基準の処理の詳細については、Jacek Malczewski 著『GIS and Multicriteria Decision Analysis』をご参照ください。
レクリエーション施設に近いエリアにランクを付ける
レクリエーション施設に近い位置に学校を建設するには、レクリエーション施設までの距離を知っておく必要があります。Spatial Analyst の [ユークリッド距離] ツールでは、任意の位置から最寄りのレクリエーション施設までの直線(ユークリッド)距離を計算し、そのマップを作成します。得られるラスタ データセットでは、どのセルも、最寄りのレクリエーション施設までの距離を表しています。このマップにランクを付けるには、[再分類(Reclassify)] ツールを使用します。レクリエーション施設に近い方が望ましいので、レクリエーション施設から遠い距離には値 1、レクリエーション施設に近い距離には値 10 を割り当て、それらの間の距離には下記の図で示すように値を線形的に割り当てます。
既存の学校から離れているエリアにランクを付ける
他の学校の管轄区域に対する侵害を防止するため、既存の学校までの距離を知っておく必要があります。[ユークリッド距離(Euclidean Distance)] ツールでは、任意の位置から最寄りの学校までの直線距離を計算し、そのマップを作成します。得られるラスタ データセットでは、どのセルも、最寄りの学校までの距離を表しています。このマップにランクを付けるには、[再分類(Reclassify)] ツールを使用します。既存の学校から離れている方が望ましいので、既存の学校に近い距離には値 1、既存の学校から離れている距離には値 10 を割り当て、それらの間の距離には下記の図で示すように値を線形的に割り当てます。
比較的平坦な土地にあるエリアにランクを付ける
急な傾斜角を避け、比較的平坦な建設エリアを見つけるには、土地の傾斜角を知っておく必要があります。[傾斜角(Slope)] ツールでは、各セルから一連の近傍セルと高さの最大変化率をセルごとに識別し、そのマップを作成します。このマップにランクを付けるには、[再分類(Reclassify)] ツールを使用します。比較的平坦な傾斜角の方が望ましいので、傾斜角が最も急な位置には値 1、傾斜角が最も緩い位置には値 10 を割り当て、それらの間の傾斜角には下記の図で示すように値を線形的に割り当てます。
土地利用形態が適切なエリアにランクを付ける
土地利用形態を示すマップにランクを付けるには、[再分類(Reclassify)] ツールを使用します。コストが関係するので、特定の土地利用形態に新設校を建設するのが望ましいため、該当する値にランクを付ける方法を決定する必要があります。
距離や傾斜角に対するランク付けは、比較的簡単です。そのような場合は、距離の長短および傾斜角の緩急のいずれが望ましいのかを判断した後、検討すべき最大距離または最大傾斜角を指定したり、残りの値を直線的に線形に割り当てます。しかし、この例の場合は、どの土地利用形態が望ましいのかを判断する必要があります。これは、調査に基づいて行う主観的な判断です。建設に最適な土地利用形態および最も不適切な土地利用形態を判断する場合は、最適な候補を決めた後で最も不適切な候補を決めるのが簡単です。それが終わったら、残っている土地利用形態から、最適な土地と最も不適切な土地を再度判断します。そして、一連の土地利用形態が優先度の順に並ぶまで、この操作を繰り返して実行します。Water(水域)という土地利用形態は建設が不可能であり、Wetlands(湿地)という土地利用形態は建設に対して制約があるため、この 2 つの形態は解析から除外してあります。一連の土地利用形態に対するランク付けは、次の図のとおりです。
一連の適合性マップを結合する
適合性モデルの最後のステップでは、レクリエーション施設までの距離、学校までの距離、傾斜角、および土地利用形態からなる再分類の出力(一連の適合性マップ)を結合します。
適合性モデルの中で一部の条件を他より優先するには、データセットにウェイトを適用し、適合性モデルの中で重要性の高いデータセットに他より大きな影響率(ウェイト)を割り当てます。すべてのデータセットの重要度が等しい場合は、各データセットに同じウェイトを割り当てることができます。
この例では、問題点の分析から、新設校の建設場所として満たすべき最も望ましい条件はレクリエーション施設の近くであること、次に望ましい条件は既存の学校から離れていることです。今回の適合性マップには、下記の影響率を割り当てます。括弧内の値は、値を正規化するためにパーセンテージ値を 100 で割った値です。各適合性マップには、正規化された値が割り当てられます。
適合性の要因 |
影響の割合 |
割合(正規化後) |
---|---|---|
レクリエーション施設までの距離 |
50% |
(0.5) |
学校までの距離 |
25% |
(0.25) |
傾斜角 |
12.5% |
(0.125) |
土地利用形態 |
12.5% |
(0.125) |
レクリエーション施設までの距離という適合性マップは最終的な結果に対して 50%(0.5)の影響度、学校までの距離という適合性マップは 25%(0.25)の影響度を持ちます。傾斜角と土地利用形態はどちらも、12.5%(0.125)の影響度を持ちます。適合性のスケールの割り当ての場合と同様に、ウェイトの割り当ても主観的なプロセスであり、検討時に最も重要になる条件によって左右されます。
最終的な適合性マップは、すべてのマップを結合して作成します。ウェイトは、一連の適合性マップの結合時に割り当てることができます。学校の建設地の最終的な適合性マップを以下の図に示します。最適な位置を、濃緑で示します。オレンジ色の陰影部は、最も不適な位置です。
データセットを加重して結合するには、[マップ代数演算] を使用します。別の方法として、[加重オーバーレイ(Weighted Overlay)] ツールを使用することもできます。モデル内でこのツールを使用した場合、元の画面に戻ってウェイト(影響の割合)および設定可能な任意のスケール値を簡単に変更することが可能です。モデル内部でジオプロセシング ツールを接続し、モデルを 1 回作成すれば、パラメータ値を変更して異なる結果を調べることができます。
データに対して検索を実行する
新しい学校に適した場所を見つける方法としては、(適合性マップを作成するのではなく)データに対して検索を実行するという方法もあります。必要なデータセット(傾斜角、レクリエーション施設までの距離、および学校までの距離)をすべて作成し終わったら、データに対して検索を実行すると適切な場所を見つけることができます。そのような検索では、土地利用形態が農地で、傾斜角が 20°未満、レクリエーション施設までの距離が 1,000 メートル未満、かつ既存の学校までの距離が 4,000 メートルを超えるといった条件を満たす位置をすべて見つけることになります。
その結果、各位置をブール型の True(条件を満たす)または False(満たさない)で表すマップが作成されます。学校建設地として適した領域は緑色で、適さない領域は茶色で示してあります。
この結果を、前のステップの適合性マップと比較してください。データの検索と適合性マップの作成との違いは、データを検索して取得したブール型の True と False のマップには、中間の適合性を持つエリアがないことです。位置は、すべての条件を満たすか、不適と見なされるかのいずれかです。解析に高い柔軟性が要求される場合は、各位置(セル)が適合性値を持つ適合性マップを作成する必要があります。適合性解析に従うと総合的に適切と見なされる位置があるが、さらに調査するとその位置への建設に制限があることがわかる場合があります。適切な位置、または不適切な位置を制限していないので(ブール型手法と同様)、その位置が最適ではない位置(たとえば、土地利用タイプが適切でない)に近接していても、建設に適した位置である場合があります。
ステップ 5: 結果の確認
空間解析の結果が得られたら、その解析結果が正しいことを確認する必要があります。その際、可能であれば、該当する用地を実際に訪れてみます。重要な項目が、解析結果に反映されていないことがよくあります。たとえば、該当地の風上に養鶏場があって強烈な臭いがするとか、市役所で過去の記録を調べた結果、該当する土地への建設に制約があったことが判明する場合もあります。そのような場合は、該当する情報を解析に反映する必要があります。
ステップ 6: 結果の施行
空間モデルの最終ステップは、解析結果を施行し、選択した位置に新しい学校の計画および建設を開始することです。