ラスタのオーバーレイへのファジー ロジックの適用

ファジー ロジックは、候補地選定モデルや適地モデルなど、従来のオーバーレイ解析の適用における課題を解決するためのオーバーレイ解析手法として使用できます。

ファジー ロジックの背後にある基本的な前提条件は、空間データの属性とジオメトリには不確かさが存在するというものです。ファジー ロジックで使用可能な手法はいずれのタイプの不確かさにも対処できますが、ファジー ロジックはオーバーレイ解析に関連しているため、属性データのほうの不確かさに重点的に対処します。属性データに不確かさが生じる 2 つの主な領域とは、クラスの定義と事象の計測です。これらの不確かさ、特にクラスの定義の不確かさは、クラスへのセルの割り当てが不確かになる原因となります。

分類におけるクラスの定義および事象をクラスに割り当てる際の不確かさは意思決定に影響することがあります。このような不確かさを使って意思決定を行うには、[ファジー オーバーレイ(Fuzzy Overlay)] ツールが役立ちます。ファジー ロジックでは、クラス間の境界の不確かさのモデリングに焦点が置いています。

[加重オーバーレイ(Weighted Overlay)][加重合計(Weighted Sum)] は、各セルがクラスに属している、または属していない、のどちらかであるクリスプ集合に基づいています。ファジー ロジックは、特に、クラス間の境界が明瞭ではない状況を扱います。クリスプ集合とは異なり、ファジー ロジックは、クラスに属するか属さないかの問題ではなく、事象が集合(クラス)の所属する(メンバ-)である可能性を定義します。ファジー ロジックは、集合論に基づいています。したがって、確率ではなく可能性を定義します。

たとえば、住宅地の適地選定モデルで傾斜角が入力条件の 1 つである場合は、各傾斜角の値が建物の適地集合(クラス)のメンバーである可能性、つまり傾斜角の値が適合している可能性に関して 0 ~ 1 の値にその傾斜角の値が変換されます(0 ~ 1 の値が割り当てられます)。値 1 は、その値が集合に完全に属することを示し、値 0 はその値が完全に集合に属さないことを示しています。他のすべての値は可能性のレベルであり、値が高いほど、所属する(メンバーシップである)可能性が高いことを示しています。元の入力値をメンバーシップの可能性を示す 0 ~ 1 のスケールに変換する処理をファジー化処理と呼びます。傾斜方向、道路までの距離、土地利用のタイプなどのモデルの各条件がファジー化されます。[ファジー メンバーシップ(Fuzzy Membership)] ツールは、データを 0 ~ 1 の可能性のスケールに変換するために使用します。

すべての条件において最も適する、つまり、すべての集合においてメンバーシップの可能性が高い場所を決定する場合は、[ファジー オーバーレイ(Fuzzy Overlay)] ツールを使用します。複数の条件がある場合、[ファジー オーバーレイ(Fuzzy Overlay)] ツールは、セルがそれらの複数の条件によって定義される各集合のメンバーである可能性を探ります。たとえば、特定の場所が、傾斜角、傾斜方向、および道路までの距離に関してどれだけ満足できるレベルであるのか、といったようにです。

したがって、ファジー ロジックによってオーバーレイ解析を行うための 2 つの主な手順は、ファジー化、つまりファジー メンバーシップ処理とファジー オーバーレイ解析になります。これらの 2 つの手順はそれぞれ、一般的なオーバーレイ処理における再分類/変換手順と追加/結合手順に対応します。

オーバーレイ解析の詳細

ある要素がクラスに属するかどうかは、多くの場合、明確には区別されず、主観的なものです。人間の言語では、これらの不確かさは、「非常に」、「ほんの少し」、「中程度に」などの修飾語句によって表現されます。ファジー ロジックは、人間の自然な思考に近い方法でオーバーレイ解析を実行します。物事は明確には割り切れず、境界はあいまいになりがちです。ファジー ロジックは、データの不確実性に対する解析を行うのではなく、クラス間の境界の不確かを扱います。

以下のセクションでは、データ分類に伴う課題、ファジー メンバーシップ処理、およびファジー オーバーレイ解析の実行について詳細を説明します。また、バイナリおよび加重オーバーレイ解析手法とのファジー ロジックの比較や、一般的なオーバーレイ処理にファジー ロジックがどのように組み込まれているかについても説明します。

データ分類とファジー ロジック

事象を説明または並べ替える場合は、通常、事象を特徴付けてクラスに分類します。土地利用カテゴリ、土壌タイプ、適地選定の重み付け、道路の種類、植生タイプなどはすべてクラスの例です。クリスプ集合では、所属する度合い(メンバーシップ)はバイナリ(二項関係)であり、事象はクラスに属するか、属さないか、のいずれかです。クラス境界は明確です。しかし、思考の不確かさ、あいまいな分類規則、不明瞭さ、双価性などによってクラス間の境界は常に明確とは限りません。

調べている事象が、グループ内の仲間のそれぞれの身長の関係であるときに、それぞれの仲間を各自の身長に基づいてクラス別に分類することから始める場合を例にとります。「低」、「中」、「高」の 3 つのクラスから始めるとすると、これらのクラスの境界を設定する必要があります。たとえば、低身長のメンバーを 5 フィート(1.524 メートル)以下の人、高身長のメンバーを 6 フィート(1.8288 メートル)以上の人、中くらいの身長のメンバーを 5 ~ 6 フィート(1.524 ~ 1.8288 メートル)の人とします。身長が 6 フィート(1.8288 メートル)のメンバーは「高」クラスに入れられます。身長が 5 フィート 11 インチ(1.8034 メートル)のメンバーは「中」クラスに分類されます。これらの二人のメンバーの身長差は 1 インチ(0.0254 メートル)しかありませんが、二人のメンバーは別々のクラスに入れられます。一人が 5 フィート 1 インチ(1.5494 メートル)、もう一人が 6 フィート 6 インチ(1.9812 メートル)のペアでも、結局は同じ関係になります。分類が大まかすぎて、身長間の全体的な関係を捉えることができません。

異なるメンバー間の身長の関係をより適切に表すために、より多くのクラスを追加することができます。たとえば、2 つ以上のクラスを追加して、「低」は 4 フィート 10 インチ(1.4732 メートル)以下、「中低」は 4 フィート 10 インチ(1.4732 メートル)~ 5 フィート 4 インチ(1.6256 メートル)、「中」は 5 フィート 4 インチ(1.6256 メートル)~ 5 フィート 10 インチ(1.778 メートル)、「中高」は 5 フィート 10 インチ(1.778 メートル)~ 6 フィート 4 インチ(1.9304 メートル)、「高」は 6 フィート 4 インチ(1.9304 メートル)以上にします。このようにクラスを調整すると、メンバーの身長間の関係をより適切に把握できます。

さらに多くのクラスを追加して調整を行うこともできます。追加したクラスの数に関わらず、引き続きメンバー間の身長の関係に対して一般化が行われます。事象の中には厳密に定義されたクラスに分類できないものがあります。場合によっては、現実世界を別個のクラスに分類することが困難なこともあります。

おわかりのように、クラス境界の定義は主観的なものであり、事象の定義によって変わることがあります。上記の身長クラスの定義の場合は、メンバーが成人で、男女が入り混じっていることを前提としています。グループ全員が女性で構成されている場合は、このクラスの定義を変える必要があるかもしれません。また、グループが子供で構成される、または子供を含む場合も、このクラスの定義をさらに変える必要があるでしょう。

クラスの定義と事象の特性は、モデル化されるその事象をどのように表現するかを示しています。さらに、計測誤差という分類の問題があります。メンバーの身長の計測手順における精度が ± 1 インチ(0.0254 メートル)である場合、この誤差によって、事象に割り当てられているクラスが変わることがあります。

ファジー ロジックは、分類処理におけるこのような不確実さをモデル化します。ファジー ロジックでは、クラスは集合として定義されます。集合内のメンバーシップのために最適な値(たとえば、住宅地の適地選定モデルにおける最適な傾斜角の値)とは何かを理解します。値が最適なものから遠ざかるほど、その値が集合内のメンバーではないこと(たとえば、傾斜角が大きすぎて建設できないなど)が明らかな一定のポイントまで明瞭度のレベルが下がります。

たとえば、上記の身長の応用例でいうと、「低」、「中」、「高」の 3 つの身長クラスのままである場合、ファジー ロジックではこれらの 3 つのクラスがオーバーラップする可能性があります。

「身長」メンバーシップ クラス
「身長」メンバーシップ クラス

上図では、各クラスに次のような完全なメンバーシップが指定されています。

「低」集合(クラス)では、5 フィート(1.524 メートル)以下のメンバーは明確に「低」集合に属することになり値 1 が割り当てられます。5 フィート(1.524 メートル)~ 5 フィート 3 1/2 インチ(1.6129 メートル)の身長のメンバーは「低」集合(クラス)と「中」集合(クラス)の間に入ります。身長が 5 フィート(1.524 メートル)~ 5 フィート 1 3/4 インチ(1.6193 メートル)の場合、この身長のメンバーは「低」集合に属する可能性が高くなります。身長が 5 フィート 1 3/4 インチ(1.6193 メートル)より大きい場合や 5 フィート 3 1/2 インチ(1.6129 メートル)以下の場合、メンバーは「低」集合に属する可能性がありますが、「中」集合のメンバーである可能性のほうがより大きくなります。

ファジー化処理は、通常、[ファジー メンバーシップ(Fuzzy Membership)] ツールを使用して、事前定義された関数により実装されます。

ファジー メンバーシップ

ファジー化処理は、はっきりと定義された境界を持たない事象のクラスにおける不確かさを明らかにします。

ファジー化では、事象の元の値が定義済みの集合に所属する可能性へと変換されます。定義済みの集合は、「適合している」、「満足できる距離内にある」、「指定のミネラルを検出できる可能性がある」などで表すことができます。事象の元の値が、このようなメンバーシップ連続体に基づき、事前定義のファジー メンバーシップ関数またはその他の再分類手法によって再分類されます。

ファジー化処理では、集合への所属度合い(メンバーシップ)に対する最適な定義が決められます。集合の定義の中核に近い事象の各値に対して 1 が割り当てられます。集合のメンバーではないことが明らかな値には 0 が割り当てられます。これらの両極の間にある値は、集合の移行ゾーン、つまり境界にあります。値が集合の最適値、つまり中心から遠ざかるにつれて割り当てられる値が 1 から 0 までの連続的なスケールで減少します。割り当てられる値が減少するにつれ、元の事象の値が当該集合のメンバーである可能性が小さくなります。

0.5 というファジー化の値は交差ポイントを示しています。ファジー値が 0.5 より大きいということは、元の事象の値がその集合のメンバーである可能性があることを意味します。ファジー値が 0.5 未満になると、元の事象の値が集合のメンバーである可能性が小さくなります。つまり、それらの値が集合に属さない可能性があります。

ファジー メンバーシップ関数の概略図
ファジー メンバーシップ関数の概略図

移行ゾーンの幅はモデル化される事象、その事象について既知の情報、集合の定義、および計測の精度によって異なります。ファジー化関数のパラメータを変更することで、移行ゾーンの特性を定義することができます。下図に、Fuzzy Gaussian 関数のパラメータを変更することで得られた 3 種類の曲線を示します。

パラメータ値の変更によるファジー メンバーシップ関数
パラメータ値の変更によるファジー メンバーシップ関数

パラメータは集合を定義するための修飾子としての役割を果たします。修飾子は集合間の潜在的なオーバーラップ、つまり中間領域を意味します。

ファジー化処理は、オーバーレイ解析の各条件に対して実施されます。

ファジー オーバーレイ

オーバーレイ モデルで複数の条件に関してすべての集合間の関係および相互作用を解析するには、ファジー オーバーレイ手法を使用します。ファジー化処理は集合への所属度合い(メンバーシップ度)に基づいているため、オーバーレイ手法は、集合のメンバーシップにおける不確かさの相互作用について描写します。ファジー オーバーレイ手法は集合論に基づいています。集合論とは、事象について特定の集合への所属(メンバーシップ)関係を定量化する数学的方法です。ファジー オーバーレイでは、通常、1 つの集合が 1 つのクラスに対応します。

使用可能なファジー集合オーバーレイ手法は Fuzzy And、Fuzzy Or、Fuzzy Product、Fuzzy Sum、および Fuzzy Gamma です。これらの各手法は、入力された集合に対するセルのメンバーシップ関係を表します。たとえば、Fuzzy And は、各セル位置が、所属する集合ごとに割り当てられた値の中での、最小ファジー値をそのセルの値として指定する出力ラスタを作成します。オーバーレイ解析が住宅地の適地選定モデルであり、複数の条件のそれぞれが、そのメンバーシップを基準として適合する集合に所属するようファジー化されている場合、Fuzzy And は、セルが複数の条件の範囲内で適合する集合の 1 つに所属する最小の可能性を特定します。

Fuzzy Or は集合の交差部分の最大値を返します。つまり、住宅地の適地選定モデルでは、各セルで最大の可能性があるメンバーシップ(最高適合性値)が複数の条件に対して評価されます。

バイナリ、加重、およびファジー ロジック オーバーレイ

オーバーレイ解析に関するファジー ロジックの説明の多くは、通常、ファジー ロジックをバイナリ オーバーレイ解析と比較しています。バイナリ オーバーレイ解析では、条件ごとに指定のクラスに属しているか、それとも属していないか、ということについて各セルを評価します。上述のように、多くの場合、明瞭なクラス境界を定義してセルを特定のクラスに明確に割り当てることは困難です。住宅地の適地選定モデルの場合、バイナリ解析では、条件ごとに各セルに「適合している」(1)または「適合していない」(0)が割り当てられます。オーバーレイ処理においては、すべての入力条件について 1 が割り当てられた位置が、適合する可能性がある位置と見なされます。

バイナリ オーバーレイ解析方法には、次のような制限が伴います。

加重オーバーレイ解析は上記の制限に対応するためのものです。加重オーバーレイは、各セルを 1 または 0 のバイナリ スケールで分類するのではなく、定義済みの連続的な評価尺度(たとえば、1 ~ 10 の評価尺度とし、10 は条件に対する相対的選好度が最も高い)で各セルに値を割り当てます。連続的な評価尺度を使うと、クラスの段階的な変化をより詳細に表現でき、事象の表現を改善することができます。条件ごとに、各セルには 1 ~ 10 の評価尺度が割り当てられます。次に、再分類された各条件が結合されて、最も高い合計値を持つセル位置が、入力条件に対する相対的選好度が最も高い位置になります。入力ごとに満足できる条件が多いほど、より適した場所となります。

ファジー オーバーレイと加重オーバーレイの類似性は高いですが(それぞれのオーバーレイのバイナリ オーバーレイとの類似性よりも)、高いこれら 2 つの基礎となっているものは異なります。ファジー オーバーレイは集合論に基づいているのに対して、加重オーバーレイはリニア結合に基づきます。いずれの手法も元の値を変換します。ファジー オーバーレイでは、変換によって集合へのメンバーシップの可能性が定義されるのに対して、加重オーバーレイは相対的な選考スケールを基準とします。これらの 2 つの手法は個別の手法であるため、複数の条件にわたって解析を実行するためのツールは共通していません。

ファジー ロジックと一般的なオーバーレイ解析処理

ファジー ロジック オーバーレイ解析は、一般的なオーバーレイ解析手順に従いますが、その中でも特に一定の手順に重点が置かれており、割り当てられた数値には、他のオーバーレイ方法と比較して異なる意味があります。

一般的なオーバーレイ解析手順は以下のとおりです。

  1. 問題の定義
  2. 問題のサブモデルへの分割
  3. 重要度の高いレイヤの決定
  4. レイヤ内のデータの再分類または変換
  5. 入力レイヤへの重み付け
  6. レイヤの追加または結合
  7. 分析

ファジー ロジック解析では、すべてのオーバーレイ解析とまったく同様に手順 1 ~ 3 を実行します。ファジー ロジックは集合論に基づいています。そのため、再分類された値の意味(手順 4)、また、この解析手法が複数の条件を組み合わせて使用できる(手順 6)という点が、ファジー ロジックを他のオーバーレイ解析方法よりも独自なものにしています。

次のセクションでは、手順 4 ~ 7 におけるファジー ロジックの特異性について説明します。

レイヤ内のデータの再分類または変換

入力データは 0 ~ 1 の評価尺度に再分類または変換されて、指定の集合に属する可能性を示します。このような再分類、つまりファジー化処理は、[ファジー メンバーシップ(Fuzzy Membership)] ツールによって実行できます。この変換処理に役立つように、一連のメンバーシップ関数があります。使用可能な関数は FuzzyGaussian、FuzzyLarge、FuzzyLinear、FuzzyMSLarge、FuzzyMSSmall、FuzzyNear、および FuzzySmall です。各メンバーシップ関数は、特定の方法でデータを変換し、事象の相互作用を解析します。

入力レイヤの重み付け

ファジー ロジックは集合理論に基づいており、特定の位置が 1 つまたは複数の集合に所属しているかどうかを決定するものであるため、重み付けを行っても意味がありません。あるファクタのウェイトを別のファクタより増やしても、1 つの集合または複数の集合の組み合わせに属する可能性を高めることはできません。位置は集合のメンバーであるかメンバーでないかのいずれかになります(その間にあるすべての帰属度を伴う)。ファジー オーバーレイ解析では、条件の重み付けは適用できません。

レイヤの追加または結合

追加または結合手順において、ファジー ロジックは事象が複数の集合に属する可能性における相互作用を探ります。これに対して、加重オーバーレイや加重合計は、満足できる要素が多いほどより適地であるという考えに基づいています。

ファジー オーバーレイには、このような相対的関係を調査し、相互作用を定量化するための特定の手法があります。結合手法は FuzzyAnd、FuzzyOr、FuzzyProduct、FuzzySum、および FuzzyGamma です。これらの各手法は集合論に基づいており、ファジー オーバーレイ解析固有の手法です。

分析

どのオーバーレイ解析においても、結果の分析と解釈はユーザに託されます。ただし、再分類された値にはそれぞれ異なる意味があり、各オーバーレイ方法にはそれぞれ基礎をなすオーバーレイ手法があるため、結果の有効性を計るのに別のメカニズムを採用する必要がある場合もあります。

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7/28/2014