フォーカル統計(Focal Statistics)ツールの仕組み
[フォーカル統計(Focal Statistics)] ツールは、各出力セルの値がそのロケーションを囲む指定された近傍にあるすべての入力セルの値の関数である出力ラスタを算出する近傍解析操作を実行します。入力で実行される関数は、その近傍に含まれているすべての値の最大値、平均値、合計値などの統計情報です。
概念的には、実行時に、アルゴリズムがラスタ内の各セルを調べて、指定された近傍について指定した統計情報を計算します。統計情報を計算する対象のセルは、処理セルと呼ばれます。処理セルの値、および指定した近傍のセルの値が、近傍統計情報の計算に含められます。
近傍が重なり合うことは可能であるため、1 つの近傍内のセルが別の処理セルの近傍に含まれていることもあります。
例
ここで、合計の統計情報を計算する [フォーカル統計(Focal Statistics)] ツールの近傍処理を示すため、値 が 5 の処理セルの例(下の図を参照)を検証します。近傍の形状は 3 x 3 セルの四角形に指定されています。隣接セルの値(3 + 2 + 3 + 4 + 2 + 1 + 4 = 19)と処理セルの値(5)の合計は 24(19 + 5 = 24)です。したがって、値 24 が、入力ラスタの処理セルと同じ位置にある出力ラスタのセルの値になります。
上の図は、入力ラスタの単一のセルに対して実行される計算を示しています。下の図は、すべての入力セルの結果を示しています。黄色の線で囲まれたセルは、上の例と同じ処理セルおよび近傍です。
近傍の形状は、ドーナツ形、円、四角形、または扇形にできます。近傍内部で計算できる統計情報は、平均値、最頻値、最大値、中央値、最小値、最少頻値、範囲、標準偏差、合計値、および種類です。
[フォーカル統計(Focal Statistics)] ツールを使用すると、計算される近傍タイプおよび統計情報を制御できます。
近傍タイプ
近傍の形状は、ドーナツ形、円、四角形、または扇形にできます。カーネル ファイルを使用することで、独自の近傍の形状を定義することもでき、また、統計情報が計算される前に近傍内の特定のセルに異なる重みを割り当てることもできます。
次に、それぞれの近傍の形状とその定義について説明します。
- ドーナツ形
- ドーナツ形の形状は 2 つの円で構成されており、ドーナツ形となるように 1 つの円がもう 1 つの円の内側にあります。小さい円の外側および大きい円の内側に中心があるセルが近傍の処理に含められます。そのため、2 つの円の間にある領域はドーナツ形の近傍となります。
- 半径は、セル数、またはマップの単位で指定され、X 軸または Y 軸に垂直に計測されます。マップ単位に半径を指定すると、それらはセル単位の半径に変換されます。このセル単位の半径によって生成される領域は、マップ単位の元の半径で計算される領域を最もよく表しています。ドーナツ形で囲まれるセルの中心が、近傍の処理に含められます。
- デフォルトのドーナツ形の近傍は、内径が 1 セル、外径が 3 セルです。
- ドーナツ形の近傍の例は、次のとおりです。
- 円
- 円の近傍は、半径の値を指定して作成します。
- 半径は、セルまたはマップの単位で指定され、X 軸または Y 軸に垂直に計測されます。半径がマップの単位で指定されている場合は、処理中の近傍に含まれるセルが次の方法で判定されます。まず、指定した半径値で定義される円の正確なエリアが計算されます。次に、指定した半径値が切り捨てられる円と、切り上げられる円についてエリアが計算されます。これらの 2 つのエリアは指定した半径から得られたエリアと比較され、近い方のエリアの半径が演算に使用されます。
- 円の近傍のデフォルトの半径は 3 セルです。
- 円の近傍の例は、次のとおりです。
- 四角形
- 四角形の近傍は、セルまたはマップ単位のいずれかに幅および高さを入力すると決まります。
- 定義されたオブジェクト内に中心があるセルのみが、四角形の近傍の一部として処理されます。
- 四角形のデフォルトの近傍は、高さと幅が 3 x 3 セルの正方形です。
- 近傍の左上隅を原点とする近傍内の処理セルの X、Y 位置が次の方程式で決定されます。
X = (近傍の幅 + 1)/2 Y = (近傍の高さ + 1)/2
セルの入力値が偶数であれば、X、Y 座標は切詰めを使用して計算されます。たとえば、5 x 5 セルの近傍では X、Y 値は 3、3 であり、4 x 4 セルの近傍では X、Y 値は 2、2 です。
- 四角形の近傍を使用する 2 つの例を以下に示します。
- 扇形
- 扇形は、半径、開始角度、終了角度によって定義されるパイ形の近傍です。
- 扇形の角度は、反時計回りです。角度は、0 から 360 までの算術次数です。0 は正の X 軸(時計の 3 時)上にあり、整数または浮動小数で表されます。負の角度も使用できます。
- 半径は、セル数、またはマップの単位で指定され、X 軸または Y 軸に垂直に計測されます。マップ単位に半径を指定すると、それはセル単位の半径に変換されます。このセル単位の半径によって生成される領域は、マップ単位の元の半径で計算される領域を最もよく表しています。扇形で囲まれるセルの中心が、近傍の処理に含められます。
- 扇形のデフォルトの近傍は 0 ~ 90 度で半径は 3 セルです。
- 扇形の近傍の例は、次のとおりです。
- 不規則
- 処理セルを囲む不規則な形状の近傍を指定できます。
- 不規則な近傍を定義するカーネル ファイルで、近傍内に含めるセルの位置を指定します。
- 近傍の左上隅を原点とする近傍内の処理セルの X、Y 位置が次の方程式で決定されます。
X = (幅 + 1)/2 Y = (高さ + 1)/2
セルの入力値が偶数であれば、X、Y 座標は切詰めを使用して計算されます。
- 不規則な近傍のカーネル ファイル:
- このカーネル ファイルは、不規則な近傍の値と形状を定義する ASCII テキスト ファイルです。ファイルは任意のテキスト エディタで作成できます。
- 最初の行で、近傍の幅と高さを「X 方向のセルの数、スペース、Y 方向のセルの数」の形式で指定します。
- 後続の行では、近傍内のそれぞれの位置の値を指定します。値は、値が表す近傍で表示されるのと同じ設定で入力します。それぞれの値の間にはスペースが必要です。
- カーネル ファイルの値は 0 か 1 のどちらかである必要があります。0 以外の値はすべて 1 として解釈されます。
- セルの位置の値が 0 であれば(空白スペースではなく)、そのセルは近傍に含められず、処理に使用されないことを示します。値が 1 であれば、それに対応するセル(および値)は近傍に含められます。
- 次の図は、不規則な近傍を定義する ASCII 形式のカーネル ファイルとそれが定義する近傍の例を示しています。
- 加重
- 不規則な近傍のタイプと同様に、重み付けされた近傍は処理セルの周囲に不規則な近傍を定義できますが、それに加えて、入力値を重み付けできます。
- 重みを定義するカーネル ファイルで、近傍に含めるセルの位置とそれらを乗算する重みを指定します。
- 重み付けのある近傍は、平均値、STD(標準偏差)、および合計値の統計情報の種類でのみ使用できます。
- 近傍の左上隅を原点とする近傍内の処理セルの X、Y 位置が次の方程式で決定されます。
x = (width + 1)/2 y = (height + 1)/2
セルの入力値が偶数であれば、X、Y 座標は切詰めを使用して計算されます。
- 重み付けのある近傍のカーネル ファイル:
- このカーネル ファイルは、重み付けのある近傍の値と形状を定義する ASCII テキスト ファイルです。ファイルは任意のテキスト エディタで作成できます。
- 最初の行で、近傍の幅と高さを「X 方向のセルの数、スペース、Y 方向のセルの数」の形式で指定します。
- 後続の行では、近傍内のそれぞれの位置の重みを指定します。値は、値が表す近傍で表示されるのと同じ設定で入力します。正の値、負の値、および 10 進数値を有効な重みの値として使用できます。それぞれの値の間にはスペースが必要です。
- 計算に含めない近傍内の位置については、カーネル ファイルで対応するロケーションの値を 0 に設定します。
- 次の図は、重み付けのある近傍を定義する ASCII 形式のカーネル ファイルとそれが定義する近傍の例を示しています。
統計情報の種類
利用できる統計情報は、最頻値、最大値、平均値、中央値、最小値、最少頻値、範囲、標準偏差です。統計情報のデフォルトの種類は平均値です。
- 最頻値
- 整数ラスタのみを入力に使用できます。
- 近傍内に複数の最頻値があると、処理セルの位置は出力で NoData になります。
- 最大値
- 入力ラスタが整数値であれば、出力ラスタの値も整数値になります。入力の値が浮動小数値であれば、出力の値も浮動小数値になります。
- 平均値
- 出力ラスタは常に浮動小数値になります。
- 平均値の統計情報は重み付けのある近傍で使用できます。
- 中央値
- 整数ラスタのみを入力に使用できます。
- 近傍内の有効なセル値の数が奇数であれば、値をランク付けし、中央の値を選択することで、中央値が計算されます。近傍内の値の数が偶数であれば、値がランク付けされ、中央の 2 つの値の平均値が算出されます。
- 最小値
- 入力ラスタが整数値であれば、出力ラスタの値も整数値になります。入力の値が浮動小数値であれば、出力の値も浮動小数値になります。
- 最少頻値
- 整数ラスタのみを入力に使用できます。
- 近傍内に複数の最少頻値があると、処理セルのロケーションは出力で NoData になります。
- 範囲
- 入力ラスタが整数値であれば、出力ラスタの値も整数値になります。入力の値が浮動小数値であれば、出力の値も浮動小数値になります。
- 出力ラスタでの各セルのロケーションの値が次の式を適用することによりセル単位で決定されます。フォーカル範囲 = フォーカル最大値 – フォーカル最小値。
- STD
- 出力ラスタは常に浮動小数値になります。
- 標準偏差 の統計情報は重み付けのある近傍で使用できます。
- 合計値
- 入力ラスタが整数値であれば、出力ラスタの値も整数値になります。入力の値が浮動小数値であれば、出力の値も浮動小数値になります。
- 種類
- 整数ラスタのみを入力に使用できます。
NoData のセルの処理
[計算時に NoData を除外] オプションは、近傍ウィンドウ内の NoData セルの処理方法を制御します。このオプションをオンにすると(DATA オプション)、NoData である近傍内のセルは、出力セル値の計算時に除外されます。オフにすると(NODATA オプション)、NoDATA である近傍内のセルは、出力が NoDATA になります。
処理の対象となっているセル自身が NoData で、[計算時に NoData を除外] オプションが選択されている場合、そのセルの出力値は、有効な値を持つ近傍内の他のセルに基づいて計算されます。もちろん、近傍内のセルがすべて NoData の場合、出力は、このパラメータの設定に関係なく NoData になります。