パスの距離解析について
距離解析では、パスの距離ツールの [パスの距離(Path Distance)]、[パスの距離アロケーション(Path Distance Allocation)]、および [パスの距離バック リンク(Path Distance Back Link)] を使用します。コスト、ユークリッド、水文解析、その他の Spatial Analyst のツールと組み合わせて使用し、さまざまな分散と移動のプロセスを効果的にモデル化できます。以降のセクションで、パスの距離ツールの基となる基本理論、およびそれらの使い方について説明します。
パスの距離の基となる移動の基本ルール
パスの距離ツールは、ソースからラスタの各セル位置までの最小累積移動コストを求めるという点でコスト距離ツールに似ています。ただし、パスの距離ツールは、コスト サーフェス上の累積コストを計算するだけでなく、移動する必要がある実際のサーフェス コスト、およびある位置から別の位置に移動するための総コストに影響する水平方向と垂直方向のファクタについて補正を行います。パスの距離ツールにより生成された累積コスト サーフェスは、分散のモデル化、流動移動、および最小コスト パスの解析に使用できます。
パスの距離ツールを最も効率的に活用するには、サーフェス上の分散と移動の基本原則をいくつか理解する必要があります。これらの基本原則を示すために、エネルギー量を調べます。具体的には、さまざまなコスト ファクタを検出しながら、2 点間を自動車で移動するために必要な燃料の量を調べます。
平坦な道路をポイント A からポイント B までの 50 マイルを自動車で移動する場合には、x ガロンの燃料が必要です。
未舗装の道路など、荒い、または凹凸のあるサーフェスを移動する必要がある場合は、同じ自動車でポイント A からポイント B までの移動にさらに多くの燃料が必要です。2 つめの場合に使用する燃料の量は、サーフェスの凹凸を考慮して補正を行うために、摩擦のあるサーフェスの移動距離を使用して計算されます。摩擦係数(F)に移動マイルを乗算し、平坦でスムーズなサーフェスを移動する場合のガロンあたりの移動マイルで除算し(D = 移動マイル / ガロンあたりの移動マイル)、次の式が得られます。
F × D = 使用する燃料
この式は最初の例でも使用できますが、自動車はスムーズなサーフェスを移動するので、摩擦係数は 2 番目の例よりも非常に小さくなります。
ポイント A からポイント B への経路が上りの場合、自動車は経路が平坦な場合よりも実際には長い距離の移動が必要なことがあります(ここでは、自動車を上方に駆動するために追加の燃料が必要だという事実を無視できます)。移動距離は、サーフェス距離(SD)と呼ばれます。
サーフェス距離は、移動サーフェスの種類により、実際の距離を伸ばします。前述の例を続けると、自動車は凹凸のあるサーフェスを長い距離移動する必要があります。サーフェス距離(SD)により、移動総コストは単なる加算ではなく、係数で増加します。サーフェス距離を考慮して(D を SD に置き換え)、次式が使用されます。
F × SD = 使用する燃料
自動車の消費エネルギーに影響する別の要素のグループは、水平方向ファクタです。これらのファクタにより、最も容易な水平方向の移動経路、および自動車がその経路からどの程度外れて移動するかが考慮されます。この例での水平方向ファクタの 1 つとして、風速が考えられます。強い追い風がある場合、サーフェスと実際の移動距離にかかわらず、ポイント A から B に移動するための自動車の燃料は少なくなります。
移動総コストに水平方向ファクタ(HF)を含めると、次式が得られます。
F × SD × HF = 使用する燃料
風速に関連する水平方向ファクタは、移動方向と風の方向の関係に従って、発生する水平方向の摩擦量を補正するように調整する必要があります。たとえば、追い風が自動車から 45 度の方向から吹いている場合、その追い風は自動車にある程度役立ちますが、真後ろ(0 度)から吹いている風ほどではありません。
自動車が向かい風にまっすぐ進む場合、水平方向の摩擦係数は最大になります。
自動車のエネルギー消費に影響する最後のファクタは、移動中に乗り越える必要がある上りまたは下りの傾斜で、垂直方向ファクタと呼ばれます。この例では、自動車が下りの傾斜を進むと移動総コストは減少します。上りの傾斜を進むと総コストは増加します。
前述の式に垂直方向ファクタ(VF)を組み込むと、次式が得られます。
F × SD × HF × VF = 使用する燃料
分散または移動するオブジェクトのソースをモデル化するときに、パスの距離ツールでは、摩擦、サーフェス距離、水平方向ファクタ、および垂直方向ファクタを制御できます。前述の例は単純なものですが、運動に影響する多数の要素を表すことができます。多くの運動は、サーフェスを移動する自動車ほど単純ではありません。たとえば、垂直角が大きい場合、または指定した移動の水平方向から大きく外れている場合、一部の現象ではコストが最小になります。別の状況では、傾斜が 0 の場合に移動コストが大きくなります。垂直方向ファクタの傾斜が標高ではなく、大気の密度、濃度レベル、またはノイズの大きさ(dB)である場合があります。パスの距離ツールでは、ここに示したような分散に影響するファクタを制御でき、解析をカスタマイズして、検討する現象の要件に合わせることができます。
パスの距離解析からの出力
以降のセクションでは、パスの距離ツールからのさまざまなタイプの出力について説明します。
パスの距離からの出力
[パスの距離(Path Distance)] ツールからの主要な出力は、総累積コスト距離ラスタです。このラスタは、各セルに、すべてのコスト ファクタを考慮に入れ、最小コストのソース セルから得られた最小コスト累積距離を格納します。このコスト距離は反復的な割り当てに基づくため、セルごとの、ソースからの最小累積コストが保証されます。累積値は、コスト サーフェスに指定したコスト単位に基づきます。
パスの距離バック リンクの方向の出力
[パスの距離バック リンク(Path Distance Back Link)] ツールは、各セルについて、どのセルを移動または流出して最も少ないコストで到達できるソースに戻すかを識別します。
出力ラスタの値には、最小累積コスト パスを(終点から最小コストのソースまで)再追跡するときに、次の隣接セルへの方向を示すコードの 0 ~ 8 の値があります。ソースのセルには、すでにゴール(ソース)に達しているため 0 が割り当てられます。
パスが右の隣接セルに進む場合、出力セルには値 1 が割り当てられます。次の図に示されているように、パスが右下のセルに進む場合は 2、真下の場合は 3 になり、以降も同様に時計回りに進みます。
パスの距離アロケーションの出力
[パスの距離アロケーション(Path Distance Allocation)] ラスタは、各セルについて、最小累積コストでセル位置に到達できるソースのゾーンを示します。
出力値は入力ソースの値と同じになりますが、[入力値ラスタ] の値が指定された場合は、その入力の値が使用されます。
オプション出力
各ツールに固有の出力ラスタの他に、パスの距離ツールはそれぞれ必要に応じて他のタイプの出力を作成することもできます。[パスの距離(Path Distance)] ツールはバック リンク ラスタを、[パスの距離バック リンク(Path Distance Back Link)] ツールは距離ラスタを作成できます。[パスの距離アロケーション(Path Distance Allocation)] ツールは、距離およびバック リンク ラスタの両方を作成できます。これは、1 つのツールだけを実行してすべての可能な出力を作成したいときに役立ちます。
パスの距離ツールへの入力
ソース位置のデータセットは、すべてのパスの距離ツールへの必須入力です。ツールと使用するオプションに応じて、解析を制御するために他の入力を指定できます。
ソース入力
ソース入力は、ソース以外の各セルまで最小累積コスト距離が計算される元となる位置を示します。これは、コスト距離ツールの場合と同様に、フィーチャ データセットまたはラスタ データセットのどちらでも構いません。
ソース入力には 1 つ以上のゾーンを含めることができます。これらのゾーンは接続されていても、接続されていなくても構いません。ソース セルに割り当てられた元の値は保持されます。<source> ラスタ内のソース セルの数に制限はありません。
コスト入力
入力コスト ラスタも、コスト距離ツールで使用する場合と同じです。セルを通過するときに、モデル化された現象により発生する相対コストに比例する加重が各セル位置に指定されます。コストは通常、フィーチャの運動または現象の発生する以前に静的な位置の固有フィーチャに基づきます。たとえば、火災の進行をモデル化する場合、コスト フィーチャには、植生の傾斜角、傾斜方向、年数、タイプ、含水率、および林冠被覆などがあります。
コスト単位は、地理単位ではなく、任意の相対スケールに基づきます。単位は、金額または消費エネルギーにするか、または単位のない任意のコストにできます。最も重要な点は、値が相対スケールで表されることです。傾斜角、傾斜方向、および植生の種類に関連する値を追加すると、火災の進行に意味のない結果が生成されます。ただし、これらの各属性を燃焼容易性の観点で再分類すると、結果は火災のコスト ラスタになります。
各セルに割り当てられるコスト値は、そのセルのセルサイズによる距離あたりの尺度になります。
各セルに格納されたコストを、セルを通過するための距離あたりの移動コストと解釈すると、解析は解像度に依存しなくなります。解像度が 50 m と 100 m の 2 つのラスタがあるとします。各ラスタのいくつかの隣接セルには、各セルの移動に 5 コスト単位が割り当てられています。5 コスト単位が、距離の各単位に適用されます(この場合は 1m の移動コスト)。したがって、解像度には関係なく、2 つのラスタのいずれでも、セル間を 100m 移動するには 500 コスト単位が費やされます。
例
セル サイズの単位をメートルで表す場合、セルに割り当てられるコストは、セル内の 1m の移動に必要なコストです。解像度が 50 m の場合、移動の総コストは移動が次のどちらかによって決まります。
- セルに対して直角(水平または垂直)。この場合の総コストは、セルに割り当てたコストに解像度を乗算した値(垂直の総コスト = コスト × 50)です。
- セルに対して対角。この場合の総コストは、セルに割り当てたコストにセル解像度を乗算し、さらに対角の係数(≈ 1.414214 または √2)を乗算した値です(対角の総コスト = 1.414214 ×(コスト × 50))。
サーフェス ラスタ
入力サーフェス ラスタは、あるセルから隣のセルまで移動するときの(平面(「直線」)距離ではなく)実際のサーフェス距離を求めるために使用します。通常、標高が入力サーフェス ラスタです。
セル a からセル b への実際の移動距離を計算するには、ピタゴラスの定理を使用します。
- 4 つの隣接するセルの 1 つへのコストを計算する場合、底辺の長さ(a)はセル サイズ(あるセルの中心から別のセルの中心までの距離)に等しくなります。
- 対角セルへのコストを求める場合、底辺はセル サイズに ≈ 1.414214(または √2)を乗算した値です。
三角形の高さ(b)を求めるには、サーフェス ラスタの終点のセルの高さから始点のセルの高さを減算します。
サーフェスが平坦でない場合は、移動距離は大きくなります。距離が大きくなるということは、入力コスト ラスタ、および水平方向ファクタと垂直方向ファクタにより決まる比率で発生するコストが大きくなるということです。
上りと下りの角度(傾斜)を乗り越えるためのコストは、必ずしもサーフェス ラスタのみから計算されるわけではありません。傾斜角に関連するコストは、入力垂直方向ファクタ ラスタ、および関連する垂直方向コスト ファクタから計算されます。垂直方向ファクタ ラスタに使用されるラスタは、入力サーフェス ラスタに使用されるラスタと同じです。
パスの距離の計算の制御に関する詳細
最大距離の閾値の指定
ときとして、閾値の累積コストが興味の範囲を超えることがあります。このような閾値は、最大距離のパラメータで制御します。この閾値を超える位置には、出力コスト距離ラスタで NoData が割り当てられます。
アロケーション出力ラスタでの代替値の使用
入力ソース ラスタのソース セルに関連付けられた値が、出力アロケーション ラスタで別の値に置き換えられる場合は、対象ラスタを入力できます。対象ラスタで各ソース セルに指定した値が、コスト アロケーション ラスタのソース セル位置に割り当てられたすべてのセルに割り当てられます。
要素の変動
パスの距離関数では、1 つまたはすべての入力パラメータを変更して、多くの変動をモデル化できます。たとえば、サーフェス距離を計算するための入力サーフェス ラスタ、または水平方向ファクタまたは垂直方向ファクタのコスト要素がない場合、パスの距離ツールはコスト距離ツールと同じ計算を実行します。平坦なサーフェス上でコスト距離を計算する場合、入力サーフェス ラスタは不要です。
ときとして、水平方向ファクタ ラスタまたは垂直方向ファクタ ラスタの 1 つで、各セル位置の値がすべて同じことがあります。たとえば、微小の地形上の変化が関係せず、(たとえば南西から)一方向の風が吹く状況で、風をモデル化する場合、水平ラスタの各セル位置を 45 度に設定できます。
入力ファクタの単位
コスト ファクタを決定するときには、次の効果に注意してください。
- セル間にある正または負の傾斜はサーフェス距離を増加し、これによりコストが増加します。
- 水平方向ファクタまたは垂直方向ファクタの値 1 は、セル間の移動コストに影響しません。ただし、1 未満のファクタはコストを減少させ、1 より大きいファクタはコストを増加させます。
使用する水平方向ファクタまたは垂直方向ファクタの関数を決定するとき(特にオプションで変更する場合)、またはカスタム ファクタ グラフを作成するときには、入力コスト ラスタの初期コスト単位、およびそれらの単位によるファクタへの影響に注意する必要があります。